天高く馬肥える秋。お彼岸ですね。
今回はちょっと横道にそれて、建築の話から離れ、鰹節(かつおぶし)の話です。
古民家再生の現場に足しげく通っているうちに、少し前の時代の手間のかかる暮らしを、今の生活に取り入れてみたくなりました。
今、施工中の横須賀の現場の近くに鰹節屋さんがあります。
先々代は沼津の人で、沼津から鰹節の行商に来ていたのが元で、横須賀にお店を構えるようになったそうです。
新建材でリフォームはしていますが、古民家の面影が漂う古いお店です。直す前は梁だったという板の看板や、杉で作った鰹節を入れる箱。竹の代わりに真鍮を使ったそろばん。そんな物に引き寄せられて、そのお店で買い物をするようになりました。鰹節の他にも乾物を売っていて、私はとろろ昆布が気に入って、よく買っています。
お店の奥さんが「食べてみて、美味しいわよ。」と鰹節を食べさせてくれました。
削りたての鰹節でとろろ昆布を食べてみたくなりました。
確か実家に鰹節削り機があったはず。子供のころ、母の手伝いで鰹節を削った記憶があります。
探してみると、有りました。
薄汚れていて、刃も少し錆びていていますが、使えそうです。
箱を乾拭きした後、お酢で湿らせた布で磨くと、汚れが落ちて新品のようになりました。刃は棟梁に研いでもらいました。
その翌日、意気揚々と鰹節を買ってきました。
早速、鰹節を削り、鰹節ととろろ昆布の吸い物にして頂きました。その美味しさに驚きました。スーパーで買ういつもの削り節と比べものになりません。鰹節が違うだけで、別の食べ物のようです。香りがよく、味わい深く、とても美味しかったです。
棟梁がいつも言っている「速さ、安さ、便利さと引き換えに、現代は多くのものを失った」という言葉が思い出されました。鰹節、されど鰹節。スーパーの削り節はビニールの小袋の封を切るだけで簡単に使えるけれど、その便利さと引き換えに、随分と味気ないものに変わってしまいました。
慣れない手付きでしたが、鉋削りで鍛えあげた棟梁に削り方の手ほどきをうけ、削っているうちに大分上達し、今では大変ではありません。段々楽しくなってきました。
はい、削れました。
とろろ昆布の上に鰹節をのせ、醤油を少したらして、あとはお湯を注ぐだけ。
美味しいお吸い物の出来上がり。
鰹節屋さんには麦茶も売っているのですが、煮出して作る麦茶も美味しくて、この夏は重宝しました。
火加減や麦の量、時間などで味が変わってくるのも楽しみのひとつです。
麦茶
古い時代の面影を残す横須賀の街は歩いていると懐かしいものに出会います。
本物はよいものです。
食べ物は味わい深く、飽きが来ず。
建築は趣きがあり、住むほどに愛着がわいてきます。その良さに気づいて関わり方が分かってくると、心も体も知らず知らずのうちに落ち着き、整えられ、癒されていきます。